研究テーマ
薬剤・食物アレルギー克服プロジェクト
薬疹および食物アレルギーは患者のQOLの低下に直結するアレルギー疾患です。本プロジェクトでは、両者の病態解明を通じて、有効な診断法、治療法の開発に貢献することを目指しています。
-研究目的
薬疹は、本来治療に必要な薬剤に対して過剰な免疫応答が生体で生じる状態であり、その一症状が皮膚に発疹として生じるため「薬疹」と呼ばれます。肝機能障害、腎機能障害など多臓器にわたって障害を来す恐れがある上に、重症型では致死的となりうるため、単に皮膚だけの問題でなく、つねに全身状態を把握する必要のある急性疾患と言えます。通常の疾患と異なり、薬疹の発端は多くが医療行為に基づくものであることから、大きな社会的問題であり、これを予防、治療することは、医療従事者全体の責務です。
一方、食物アレルギーは食物抗原に対する即時型アレルギー反応であり、掻痒をともなう蕁麻疹として皮膚に症状が出現する他、消化器症状、呼吸器症状を併発し、重篤な場合には血圧低下によるショック症状を呈します。近年、ある種の花粉症を有すると、比較的幅広い種類の食物抗原に対してアレルギー症状を呈することが分かってきました。食事は我々が生命を営むのに必須な行為であるだけでなく、良好な社会生活を送る上で重要な場面となります。食物アレルギーはこの食事という行為に制限をもたらし、人々のQOLを著しく低下させるため、食物アレルギーの克服は安全な食生活を送るために強く求められています。
本プロジェクトは薬疹および食物アレルギーの病態解明を通じて、有効な診断法、治療法の開発に貢献することを目的とします。
-研究概要
1. 薬剤性過敏症症候群の病態解析
中毒性表皮壊死症(TEN)、スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)は重症薬疹として知られています。TEN/SJSは重度の表皮傷害をきたすことで重症化しますが、DIHSは経過中に様々な合併症を生じることで重症化をきたすという点で違いがあります。DIHSで合併しうる病態として、発症して比較的早期には、ヘルペスウイルス族の再活性化を代表する感染症があり、発症後暫くたったあとには自己免疫疾患が合併してくることが明らかになってきています。我々は、DIHSに罹患した患者さんを長期的にきちんとフォローすることで、合併症の有無を確認し、実態を明らかにしようとしています。このような綿密な診療を通じた情報を蓄積していくことで、重症薬疹の病態を明らかにして、患者さんへ還元していきたいと考えています。
2. 新しい即時型アレルギーの原因
食物アレルギーで生じる蕁麻疹やアナフィラキシーの診断では採血で検査可能な特異的IgEの検出を行うことが多いです。現在保険で検査可能な検査項目としてかなりのアレルゲンの検索が可能となってきていますが、全てに対応できているわけではありません。特に納豆によるアレルギーは、納豆が日本食文化の代表であることもあり、近年注目されています。我々の臨床研究によると、納豆はアナフィラキシーを引き起こす原因として報告されてきましたが、アナフィラキシーのような重篤なアレルギーだけでなく、より軽症の蕁麻疹の原因として存在していることもわかってきました。つまり、実は、気づかないうちに食している納豆が、原因不明とされてきた蕁麻疹の原因である可能性が明らかになってきているのです。納豆をはじめ、過去に知られてこなかったアレルギーの原因や全貌をあきらかにすることを通じて、簡便に検査可能な特異的IgEの測定が、今後、施行可能になるよう貢献してまいります。