研究テーマ
皮膚悪性腫瘍克服プロジェクト
本プロジェクトは、乳房外パジェット病、悪性黒色腫をはじめとした皮膚がんの新規治療法開発を主に手がけており、患者さんに届けられる医療の改善を目指して進めています。
-乳房外パジェット病
乳房外パジェット病は、いったん転移を生じると根治させることは非常に困難であるだけでなく、保険適応の薬物治療が一つもありません。以前よりある抗癌剤を使用しているのが現状であり、そのためドセタキセルやシスプラチンなどと言った古い薬剤に頼らざるを得ない状況が続いています。乳房外パジェット病の進行期症例に着目し、HER2の解析を行った平井医師の報告に基づくと、約30%の症例がHER2陽性と判定され、HER2阻害薬の適用と効果と安全性の評価が望まれています。
慶應義塾大学病院では、世界で初となる、HER2阻害薬を用いた臨床試験(先進医療)を実施しました。試験薬はトラスツズマブ及びドセタキセルで、臨床試験は2021年5月に終了しており、解析後に結果を公表する予定です。
さらに、慶應義塾大学病院では、世界で2番目となる、HER2阻害薬を用いた臨床試験を実施しております。 試験薬はトラスツズマブ エムタンシンで、臨床試験は2020年より開始されています。また、「HER2陽性の進行期乳房外パジェット病に対するトラスツズマブ エムタンシン治療の第Ⅱ相臨床試験」がAMED革新的がん医療実用化研究事業において、適応拡大等による革新的がん治療薬(医薬品)の開発・薬事承認を目指した医師主導治験の令和3年度の課題の一つとして採択されており、支援を受けています。
また、「アンドロゲンレセプター陽性進行期乳房外パジェット病に対する抗アンドロゲン療法第II相臨床試験」がAMED臨床研究・治験推進研究事業において、医薬品開発を目指す臨床研究・医師主導治験のプロトコル作成に関する研究【準備(ステップ1)】の令和3年度の課題の一つとして採択されており、支援を受けています。
表 乳房外パジェット病を対象としたこれまでの国内外での臨床試験
-悪性黒色腫(メラノーマ)
悪性黒色腫(メラノーマ)は、早期に発見して治療を行っても、リンパ節や全身に転移を来たす確率が高く、いったん転移を生じた場合には根治させることは非常に困難です。病期分類に基づいた標準的な治療法として、原発巣の外科的拡大切除、所属リンパ節郭清、化学療法などが行われることが一般的ですが、リンパ節や全身に転移を有する進行悪性黒色腫における効果は限定的と言わざるを得ません。新規の薬剤として抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体やBRAF/MEK阻害薬などが実臨床で用いられていますが、それらの治療薬により治癒が得られる割合は決して多くなく、効果的な新しい治療法の開発が期待されています。
慶應義塾大学病院では、がん遺伝子パネル検査とエキスパートパネル会議を経て、KIT阻害薬が推奨されるKIT変異を有する悪性黒色腫に対する先進医療を実施しています。 この臨床試験は、AMED臨床研究・治験推進研究事業において、既に作成済みのプロトコル(又はプロトコル骨子)に基づいて実施する医薬品に関する臨床研究・医師主導治験の推進【実施(ステップ2)】の令和3年度の課題の一つとして採択されており、支援を受けております。
また、以前より、悪性黒色腫においては免疫療法が効果的である症例がしばしば報告されており、様々な方法による免疫療法が開発されています。中でも、転移巣などに浸潤しているTリンパ球を体外で培養し、全身放射線照射と抗癌剤、生物学的製剤 (インターロイキン2)を併用する免疫療法は、すでに米国NCIにて臨床試験として行われ、実際に抗腫瘍効果が示されました。慶應義塾大学病院では「進行期悪性黒色腫に対する骨髄非破壊的前処置および低用量IL-2併用の短期培養抗腫瘍自己リンパ球輸注療法のfeasibility試験」を実施しました。私たちは、臨床試験を通じて得られたデータを解析し、日本人に適したより効果的かつ効率的な免疫療法の確立を目指しています。
-その他
・KOMPASを通じ、皮膚悪性腫瘍に関する情報発信に努めております。