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研究テーマ

研究テーマ

皮膚バリア機構解明プロジェクト

皮膚は私たちの体を守るバリアです。外界からの侵入を防御する機能、侵入者を検出し排除する免疫機能、そして体温や水分を保持する恒常性維持機能、皮膚が備えるさまざまなバリア機能を解明します。

-研究概要

 皮膚とはわれわれの体の表面を覆う構造であり、外界と自己を区切る境界として機能しています。一般に生物個体の表面を覆い、外界と自己の境界を区切る役割を担う構造のことを外皮と呼びます。脊椎動物の外皮が皮膚です。皮膚は表皮と真皮、脂肪織からなります。表皮は角化重層扁平上皮であり、外側から順に、角質層、顆粒層、有棘層、基底層という4層からなっています。一番外側の角質層は、乾燥や物理的な力に耐える、とても頑丈な構造を作っています。その内側の顆粒層の細胞を外側から順にSG1、SG2、SG3細胞と呼びます。このなかで、SG2細胞だけが、細胞と細胞の間をシールするタイトジャンクション(TJ)という構造を持っています。哺乳類の表皮は、外界からの物理的な刺激に耐え、病原体やアレルゲンの侵入を防ぐために、二重のバリアを備えています。角質細胞とその隙間を埋める角質細胞間脂質からなる角質バリアと、SG2細胞とその細胞間の隙間をシールするTJからなるTJバリアです。

 これら皮膚のバリアには、大きく分けて2つの役割があります。1つは、我々が空気中でも干からびずに生きて行くために、内側から外側への水の移動を制限する、内から外へのバリア機能。もう1つは、外から病原体やアレルゲンが侵入してこないように防ぐ、外から内へのバリア機能です。しかし、角質バリアとTJバリアが、それぞれどんな物質をどの層でどの程度止めるのか、そしてバリアを超えて侵入するアレルゲンや病原体が、どこで、どのようにして、免疫系の抗原提示細胞(表皮ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)によって捕らえられるのか、これまでほとんど明らかになっていませんでした。一方、2006年にアトピー性皮膚炎の発症要因として角質層の主要構成物質であるフィラグリンの遺伝子変異が報告されました。この発見は、角質層バリアの破綻による抗原の皮内への侵入が、アトピー性皮膚炎の発症原因となっている可能性を示唆するものでした。本研究では、皮膚バリア機能を可視化する新しい技術の開発を行い、抗原が如何に皮膚のバリアを通過し、抗原提示細胞に捕らえられるのかを解析しています。また、角質層の異常を示す疾患及びマウスモデルから原因遺伝子を同定する事によって、皮膚バリア形成に重要な遺伝子を同定し角層形成異常発症のメカニズムを解析しています。これらにより作製された、フィラグリン欠損マウス、角質層形成異常マウス、皮膚TJ障害マウスの開発・解析を行うことで、角質バリアとTJバリアの相互作用と役割分担を明かとし、皮膚のホメオスターシスを保つためのバリア機能、外界からの病原体・アレルゲンの侵入に対するバリア機能と、それらの侵入者に対する免疫応答機能について解析を進めています。

-主な成果

1.皮膚のタイトジャンクションのバリアを立体的に観察することに世界で初めて成功し、表皮ランゲルハンス細胞が、タイトジャンクションバリアの外側に樹状突起を伸ばして、角質層を通り抜けてきた抗原やアレルゲンを積極的に捕捉することを明らかにしました(J Exp Med 2009)。この精緻なメカニズムを通じて、細菌の毒素に対する先制免疫を成立させられることが分かっています(J Exp Med 2011)。また、アトピー性皮膚炎の皮膚では、活性化してタイトジャンクションバリアの外側に樹状突起を伸ばすランゲルハンス細胞の数が増加していることも分かりました(JACI 2014)。このメカニズムは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、喘息などの原因となる「アレルゲンに対する経皮感作メカニズム」の1つと考えられています(J Clin Invest 2012)。 

【プレスリリース】皮膚が備える巧妙なバリア機構を解明 ―アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の発症メカニズムに新たな展開―こちらをクリック

【ムービー1】

マウスの耳皮膚におけるタイトジャンクションバリア(緑色のハニカム模様)とランゲルハンス細胞(青い樹状突起を四方に伸ばす赤い細胞)の様子。コンフォーカル顕微鏡を用いたマウス耳表皮全体の三次元観察から得られた画像です。

【ムービー2】

ランゲルハンス細胞が関与する経皮感作メカニズムのモデル。活性化したランゲルハンス細胞は、タイトジャンクションバリアの外側に樹状突起を伸ばして、外来抗原を捕捉します。 

2.皮膚のタイトジャンクションのバリアを立体的に観察すると、タイトジャンクションは基本的に蜂の巣のような網目模様をしています。この網目模様を作っている六角形の多くは一重でしたが、10個に1つぐらいの割合で、2重の六角形が観察されました(上記のムービー1で見ることができます)。なぜところどころ2重になっているのでしょうか?私たちは、この2重の六角形が、バリアを破らずに細胞を新しいものと入れ替える、新陳代謝メカニズムの秘密であることを解き明かしました(Elife 2016)。

【プレスリリース】皮膚が新陳代謝しつつバリアを維持する仕組みを解明―細胞の形が解き明かす瑞々しい皮膚が保たれる秘密―(こちらをクリック)

【ムービー3】

細胞がバリアを保ったまま、次々と入れ替わっていく様子。細胞と細胞の間の緑色のラインが、細胞と細胞の隙間をシールするタイトジャンクションです。重層上皮では、ただ一層の細胞だけがタイトジャンクションを備えているため、緑色のラインは一重の網目模様になります。細胞が入れ替わる時にだけ、元々ある緑色の六角形と、新しくできた紫色の六角形によって、2重の六角形ができます。この仕組みによって、タイトジャンクションによるバリアが漏れることなく、細胞が新しく入れ替わっていくことができるのです。

-主な論文

Yokouchi M, Atsugi T, Logtestijn M, Tanaka R, Kajimura M, Suematsu M, Furuse M, Amagai M, Kubo A*. Epidermal cell turnover across tight junctions based on Kelvin’s tetrakaidecahedron cell shape. Elife. 5:e19593, 2016. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27894419

Yokouchi M, Kubo A*, Kawasaki H, Yoshida K, Ishii K, Furuse M, Amagai M. Epidermal tight junction barrier function is altered by skin inflammation, but not by filaggrin-deficient stratum corneum. J Dermatol Sci. 77:28-36, 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25511077

Yoshida K, Kubo A*, Fujita H, Yokouchi M, Ishii K, Kawasaki H, Nomura T, Shimizu H, Kouyama K, Ebihara T, Nagao K, Amagai M. Distinct behavior of human Langerhans cells and inflammatory dendritic epidermal cells at tight junctions in patients with atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 134:856-864, 2014. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25282566

Kubo A*, Ishizaki I, Kubo A, Kawasaki H, Nagao K, Ohashi Y, Amagai M. The stratum corneum comprises three layers with distinct metal-ion barrier properties. Sci Rep. 3:1731, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23615774

Sasaki T, Shiohama A, Kubo A, Kawasaki H, Ishida-Yamamoto A,Yamada T, Hachiya T, Shimizu A, Okano H, Kudoh J, Amagai M: A homozygous nonsense mutation in the gene for Tmem79, a component for the lamellar granule secretory system, produces spontaneous eczema in an experimental model of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 132:1111-1120 e1114, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24060273

Kubo A*, Nagao K, Amagai M. Epidermal barrier dysfunction and cutaneous sensitization in atopic diseases. J Clin Invest. 122:440-447, 2012. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22293182

Sasaki T, Shiohama A, Kubo A, Kawasaki H, Ishida-Yamamoto A,Yamada T, Hachiya T, Shimizu A, Okano H, Kudoh J, Amagai M: A homozygous nonsense mutation in the gene for Tmem79, a component for the lamellar granule secretory system, produces spontaneous eczema in an experimental model of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 132:1111-1120 e1114, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24060273

Kawasaki H, Nagao K, Kubo A, Hata T, Shimizu A, Mizuno H, Yamada T, Amagai M. Altered stratum corneum barrier and enhanced percutaneous immune responses in filaggrin-null mice. J Allergy Clin Immunol. 129:1538-1546, 2012. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22409988

Ouchi T, Kubo A, Yokouchi M, Adachi T, Kobayashi T, Kitashima D, Fujii H, Clausen B, Koyasu S, Amagai M, Nagao K. Langerhans cell antigen capture through tight junctions confers preemptive immunity in experimental staphylococcal scalded skin syndrome. J Exp Med. 208:2607-2613, 2011. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22143886

Kubo A*, Nagao K, Yokouchi M, Sasaki H, Amagai M. External antigen uptake by Langerhans cells with reorganization of epidermal tight junction barriers. J Exp Med. 206:2937-2946, 2009. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19995951

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